平成20年度は、最初に、タンパク質と低分子化合物の相互作用エネルギーの計算に特化したスキームを作成し、申請者が独自に開発しているFMO計算パッケージ「PAICS」に実装した。これにより、全体のエネルギー計算に要する10分の1程度の時間で、相互作用エネルギーの計算を行うことが可能となった。また、より正確な相互作用エネルギーを得るために、基底関数の重なり誤差を除外する手法を実装した。次に、本研究で開発したプログラムを、プリオン病の原因物質と考えられているプリオンタンパク質と薬理効果を持つ低分子化合物(GN8)の相互作用解析に応用した。この際、MDシミュレーションのトラジェクトリーから抜き出した20点の構造に対してFMO計算を実行し、得られた結果を平均的に取り扱うことで、体内温度における生体分子の構造揺らぎの影響を考慮した。これまでは、このような複数の構造における生体分子の量子化学計算は、多くの計算時間を要するため実行困難であったが、相互作用エネルギーに特化したスキームを開発することで、これが可能となった。得られた結果から、GN8のどの部位がタンパク質との相互作用に重要であるか、どのアミノ酸残基がGN8と大きな相互作用を持つかを調べることに成功した。これらの情報は、今後、GN8を薬理効果の高い化合物へ最適化する際に有効に利用されると期待している。また、我々が開発したプログラムは、プリオンタンパク質に限らず、様々なタンパク質と低分子化合物の複合体に応用かのうである。
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