平成21年度は、さらに計算を高速化するために、RI(Resolution of the Identity) MP2法のプログラムを作成し「PAICS」に実装した。これにより、これまで計算時間を最も多くついやしていたMP2計算を1/10程度の時間で実行することが可能となり、全体の計算時間も1/3程度まで減らすことができた。また、ダイナミックアップデート法の導入により、モノマーSCC計算にかかる時間を半分程度に減らすことに成功した。これらの高速化により、最終的に、PAICSを用いると、プリオンタンパク質とリガンド分子の相互作用解析が、通常のクラスターマシン(8coreのみ使用)上で、数時間で実行することが可能となった。 また、プリオンタンパク質全体に関して量子化学計算を実行し、タンパク質の構造維持に重要に寄与する残基間相互作用を調べた。プリオン病は、正常型の構造から異常型の構造に変異することで発症すると考えられており、このような相互作用を解析することは、今後、プリオン病のメカニズムを解明する上で役に立つと期待できる。 本研究を通じて開発された、各プログラムモジュールは「PAICS」の一部として公開されることになっており、多くの研究者がここで開発されたタンパク質リガンド間の相互作用解析スキームを利用し、様々な生体分子に応用していくことが期待される。
|