A:脆弱な分子凝縮体の延伸下物性:脆弱な有機結晶を樹脂に封入し、延伸・低温下にて磁化率を測定する機構の開発を試みた。抵抗率測定機構の軽量化により、測定自体は可能になった。一方、大きな延伸での測定が難しいことも判明した。その理由は、結晶のコーティング加工にある。これは、有機結晶と重合前の樹脂との反応を防ぐ意味がある。ところが軽量化により、コーティング剤の占める表面積が、試料棒の全断面積に対し大きくなる。その結果、結晶と試料棒が滑り、分離する。そこで、磁化率測定は一旦停止し、「材料の見直し」という研究を始めた。硬化剤(一般の試薬も含む)と主剤の組みを、百通り以上試した。混合比・粘度・硬化条件・試料との反応性、を調べた。とある組み合わせを見出し、低粘度・コーティング不要・過熱無しにて、試料棒の一体形成を達成した。この成果は、応力研究やデバイス作成への波及が期待される。特許申請の予定があり、公表を差し控えている。 B:分子伝導体の超伝導機構の再構築について:スピン液体である[Pd(dmit)2]塩とκ-型ET塩、および、その周辺物質の分子内振動測定を行った。磁気揺らぎと目される超伝導でも、格子と電荷揺らぎの重要性を得た。その結果、電荷揺らぎの系で、量子臨界点・相分離の存在を予想した。現在、SPring-8にて相分離の可視化を行っている。成果の一部は、現在執筆中である。 C:新規の電荷整列メカニズムの探索について:アミド基を持つ分子性の圧力下超伝導体を調べた結果、電荷整列と反強磁性に、アミド基の凍結が関わることを見出した。これは、磁場有機超伝導体とは全く異なる、新しい超伝導の制御機構である。新規分子であるため、同位体置換体の測定や計算等、慎重な検討を重ね、論文執筆の準備が整いつつある。研究の初動を補助すると言う目的に合致した成果を得たと確信している。
|