本研究の目的は、二つの性格の異なる配位子を多座配位子として用い、鍵化合物となる特異な電子構造を持つ新しい錯体、特に電子欠損型金属ヒドリド錯体を合成し、その化学的特性を探求することである。特に、補助配位子として特異な反応性を併せ持つ配位子を用いることで、中心金属と配位子の二つの反応点が近接する特異な反応場を作り出し、従来にない量論並びに触媒反応を見出すことを最終的な目的とする。鍵中間体となる電子欠損型の遷移金属ヒドリド種の合成を当面の目的とし、新規な配位子の設計を行い、続いて合成を試みた。研究開始時の計画は、研究を三段階、(1)配位子の合成、(2)金属ヒドリド錯体の合成と構造、(3)小分子活性化、に分け研究を進めるものであった。 昨年度に引き続き、新規な配位子の合成を試みた。アリールオキシド配位子とカルベン配位子の組み合わせによる分子モデルを構築し、実際に大型計算機を用いた理論計算を行った。環状アルキルアミノカルベンCAACを用いることが目的であるが、より一般的なカルベンNHCを用いてまず検討を行った。実際にNHCとフェノキシド配位子の組み合わせによる多座配位子の例はいくつか報告されており、後周期遷移金属を中心に研究がなされている。カルベンを中心とし、2つのフェノキシド配位子を持つ3座配位子を合成した。カルベン/フェノキシド混合型配位子を用いて前周期遷移金属錯体の合成を行った。金属には3座で効果的に配位し、錯体を形成することを見出した。配位子上の置換基の違いによって配位様式が異なることも見出した。
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