グラフェンはグラファイトの構成単位でsp^2結合した炭素からなる単原子厚の二次元構造であり、シリコンを超える高い電子移動度、特異な量子効果、高電導性など興味深い物性を持ち、ごく最近、活発に研究が展開されている化合物である。今年度は、最もシンプルな硫黄類縁体であるベンゾトリチオフェン誘導体に着目し、誘導体の効率的合成法およびその基礎物性について検討した。 ベンゾトリチオフェン誘導体の前駆体であるβ位連結オリゴチオフェンは対応するジブロモチオフェンとトリブチルスタニルチオフェンとのStilleカップリング反応により合成した。キー反応である環化反応は、塩化鉄を用いた酸化的環化、もしくは、有機金属試薬を用いた分子内環化反応により、ディスク上分子であるベンゾトリチオフェン誘導体を良好な収率で得ることに成功した。サイクリックボルタンメトリーにより、得られた誘導体はすべて高い電子供与性を有し、可逆な酸化反応を受けることを確認した。さらに、側鎖がエチル基とチエニル基の良質な単結晶を得ることに成功し、X線構造解析によりそれらの結晶構造を明らかにした。例えば、チエニル基の結晶中では、ベンゾトリチオフェン骨格が一次元に集積してリボン構造を形成し、さらに隣り合うリボン同士は、両末端の2つのチオフェン環のπスタッキングによって連結し、結果として二次元シートが形成されている。ベンゾトリチオフェン誘導体の電荷輸送特性を調べる目的で、それぞれのキャストフィルムを用いて、物質の本質的な電導挙動の評価が可能な非接触電導度測定を行った。その結果、今回デザインした誘導体の多くが高いホール移動度を示すことを見出した。今後、得られた単結晶を用いた非接触電導度測定を行い、電荷輸送の異方性についても検討する予定である。また、基本ユニットとして共役高分子を合成し、有機エレクトロニクス材料としての展開を図る。
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