我が国電力の30%強を担う軽水炉型原子炉は、高経年化(当初の想定期間を超えて運転)時代を迎えつつある。その安全性を確保する上で最重要の問題の一つに、炉心を格納する圧力容器の照射脆化が挙げられる。脆化による脆性破壊は、材料中の不均一組織・界面(炭化物や結晶粒界)が起点となって生じるが、これらの研究例は世界的にも乏しく、理解は未だ不十分である。本研究では、そのうちの微小炭化物およびその界面に焦点を絞り、最先端の3次元アトムプローブ(3D-AP : Three Dimensional Atom Probe)を用いて原子レベルでこれを観察し、解析することを目的とした。今年度は、昨年に確立した3D-AP試料の作製手法を用いて、原子炉圧力容器鋼中の微小炭化物を3D-APで観察することを主目標とした。本研究では、照射済みRPV鋼試料について実験を行うが、これらの試料は機械試験後の残材として入手しており、不整形である。これを、放電加工機を用いて加工歪みが導入されないように切断・整形し、さらに、試料を先端径100nm以下の細い針状に加工して3D-AP試料とした。ベルギー炉の監視試験片中の微小炭化物を3D-AP観察し、M6C型の炭化物を分析した。中性子照射により、炭化物-マトリックス界面でのMn、Mo、Pなどの偏析が顕著になることを明らかにした。このような界面は、前述のように圧力容器鋼中の破壊の起点の有力な候補であるから、照射による変化をナノ組織の立場から調べた本研究は、圧力容器鋼の照射脆化を理解する上で重要と考えられる。
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