本研究は、液体ロケットエンジンにおける極低温推進剤の微粒化過程を対象に、噴射条件と微粒化特性の関係を把握することで、適切な噴射条件を設定するための指針を得ることが目的である。燃料の微粒化の中でも噴射器近傍の微粒化過程は、今日なお実験的な計測が極めて困難であるため、噴霧のモデル化に際して、噴射器近傍の微粒化過程に関する知見が強く求められている。それに伴い、実機エンジンにおいても、噴射条件や噴射器形状を適切に選定するのが難しいという現実的な問題に直面している。そこで噴射器近傍の微粒化過程を、新しい数値解法を構築して分析することで、現象を詳細に理解するとともに、設計指針へのフィードバックを試みている。 平成20年度は、応募者らが開発しているCIP法とVOF法を組み合わせた数値解析法を継続的に発展させ、噴射器近傍の微粒化過程への数値解法の適応可能性を探った。その成果として、極低温流体の物性値を再現可能な微粒化解析法が一定程度構築された。また、並行して実施した液膜微粒化の可視化実験結果を、対応する数値解析結果と比較することで、数値解法を検証した。その上で、液体ロケットエンジンや衛星のスラスターに用いられている衝突型噴射器における液膜の微粒化過程を対象として、数値解析を実施した。噴射条件および噴射器形状として考慮すべき、噴射速度、雰囲気密度、噴射器長さ等が液膜の微粒化に与える影響を検討し、噴射速度と雰囲気密度が大きいときに微粒化が促進されることを確認した。また噴射器長さが長くなり、噴射速度分布が非一様になると、液膜内部の速度分布における変曲点の存在に起因した不安定性が卓越することで、液膜の微粒化が促進されることを明らかにした。更に、液膜微粒化過程における変曲点型の不安定性に起因した安定限界を、無次元数を用いて整理することで、得られた知見を設計指針に反映した。
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