本研究の目的は、原子力発電設備に生じた欠陥の種別が疲労き裂であるか応力腐食割れであるかを判別することである。疲労き裂は直線的に進展するが、原子力発電設備に生じる応力腐食割れは屈曲しながら進展するため、それらの形状の差異を可視化すれば種別を判別できると考えた。欠陥を可視化する手法のひとつに、超音波フェイズドアレイ法がある。しかしながら現状のフェイズドアレイシステムは、欠陥の詳細形状を可視化できるだけの空間分解能を有していない。そこで、欠陥の詳細な形状を可視化するために、高い空間分解能を有するフェイズドアレイ探触子の設計を行った。可視化画像の空間分解能は超音波ビームを収束させたときの幅に依存するため、超音波の音場を解析するプログラムを独自に開発し、これを用いて高空間分解能を有するフェイズドアレイ探触子を設計した。次に、音場解析結果と実験値がどの程度一致するかの調査を行った。上述した音場解析手法では、超音波源は点音源の集合であると仮定して計算を行っている。しかしながら実際には超音波自体が持つ指向性の影響があるため、計算値と実験値は異なる可能性があった。そこで音場解析結果と実際の超音波の音場を比較するために実験を行った。その結果、超音波振動子単体では音場解析結果と実験結果に差異が見られたが、振動子が集合してフェイズドアレイ探触子を構成した場合には、総合的な音場は解析結果と実験値でほとんど差異が無いことが明らかになった。次に、設計したフェイズドアレイ探触子について、差分法による超音波伝播のシミュレーションを行って、有効性を明らかにした。疲労き裂や応力腐食割れの形状を模擬した欠陥をモデル中に導入し、設計したフェイズドアレイ探触子で仮想的に超音波を送受信して、受信した信号を元に可視化画像を構築した。その結果、設計した高空間分解能フェイズドアレイ探触子によって、モデル中の欠陥を明瞭に可視化できることが明らかになった。
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