本研究の目的は、原子力発電設備に生じた欠陥の種別が疲労き裂であるか応力腐食割れであるかを判別することである。疲労き裂は直線的に進展するが、原子力発電設備に生じる応力腐食割れは屈曲しながら進展するため、それらの形状の差異を可視化すれば種別を判別できると考えた。欠陥を可視化する手法のひとつに、超音波フェイズドアレイ法がある。しかしながら現状のフェイズドアレイシステムは、欠陥の詳細形状を可視化できるだけの空間分解能を有していない。そこで、昨年度は欠陥の詳細な形状を可視化するために、高い空間分解能を有するフェイズドアレイ探触子の設計を行い、シミュレーションで有効性を確認した。 本年度は、昨年度の結果を元に、実験を行って有効性を確認した。はじめにスリット状の人工きずを有するSUS304製の試験片について、設計したフェイズドアレイ探触子を重ね合わせの原理を用いて再現し、超音波探傷を行って可視化画像を得た。その結果、シミュレーション結果と比較してノイズが多くなり、画像が不鮮明になることが明らかになった。そこできずエコー以外のノイズを除去する技術を開発し、それを適用することで、きずを明瞭に確認できることを明らかにした。 次に、間隔の異なる隣接したスリット状の人工きずを有するSUS304製の試験片を複数用意し、それぞれについて提案手法で実験を行い、きず可視化画像を得た。その結果、きず先端が4.0mm程度離れていれば、可視化画像でそれぞれの先端を分離して観察することが可能であることが明らかになった。
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