近年、鉛やビスマスなどの有害元素を含まない環境調和型の強誘電体材料の研究が盛んに行われている。しかし、強誘電性をもたらす歪んだ格子構造を安定化する鉛やビスマスといった孤立電子対を持つイオンの代替には限りがある。一方で、基板上に成長した薄膜の場合には、基板の拘束によって薄膜を歪ませることができるため、チタン酸ストロンチウム(SrTiO_3)のような本来強誘電性を示さない材料においても強誘電性の発現が可能となり、環境調和型の強誘電体として使用できる可能性がある。本研究では薄膜における格子歪みの安定化手法として、基板と薄膜の熱応力、すなわち熱膨張のミスマッチの利用に注目し、SrTiO_3の約2倍の熱膨張係数をもつホタル石型フッ化物CaF_2を基板として用いることで、SrTiO_3薄膜の強誘電性の発現を目指した。 本年度は、CaF_2基板上に中間層などの導入を行い、高品質なSrTiO_3薄膜の作製を目指した。その結果、SrTiO_3中間層を用いて、SrTiO_3薄膜/SrRuO_3電極層/SrTiO_3中間層/CaF_2基板という積層構造にすることで、高品質な単結晶SrTiO_3薄膜が成長する事が明らかになった。これは、SrTiO_3中間層の利用によりSrRuO_3電極層とCaF_2基板との界面整合性が向上したためと考えられる。得られたSrTiO_3薄膜のXRD Rocking Curveの最小の半価幅は0.5°であった。 XRD逆格子空間マッピング測定により、得られた単結晶SrTiO_3薄膜は、50nm以上の膜厚でも約0.7%の面内圧縮歪みを有していることが明らかになった。この結果は、歪みの導入が、基板と膜の格子定数のミスマッチではなく熱膨張のミスマッチによることを示している。また得られた歪み量から、約100K以下で強誘電性が誘起されると見積もられた。今後、合成条件の更なる最適化を行い、詳細な特性評価を行う。
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