研究概要 |
急務の環境問題や交通弱者への対策として,交通基盤整備や公共交通利用促進方策の必要性は認められつつあるが,一般市民など利害関係者との合意形成過程で時間を要し,問題解決が予定より遅れている場合が少なくない.合意形成には,交通施策が実施された際の人々の活動・交通行動の変化,それに伴う交通状況や経済活動等への影響を客観的に把握する必要があり,定量的な評価指標を提供する交通需要予測の重要性は高い.しかし,現在実用化されている交通需要予測手法は人々の交通行動や時間軸などを十分に考慮しているとはいえず,利害関係者との議論に耐えうるものではないと考える.そのため,既往予測手法の有する諸問題を総合的に解決しうる,新たな交通需要予測モデルの開発と実都市圏への適用を博士課程在学中に研究してきたが,現況再現精度が低いこと,計算コストが大きいことが実用化に向けた課題として残されていた. 本研究では上記の課題への取り組みとして,交通量の離散化や並列化計算の導入を行うことで,開発モデルはある程度実用的に適用できる予測モデルであることが確認できた.また,開発モデルの基本性能の確認として,道路課金政策を対象として実都市圏に適用した.その結果,課金政策導入によって変化する課金対象エリアの来訪者数や利用交通手段状況,環境改善評価(CO_2削減効果),利用者便益と課金収入による便益評価など,一般市民との議論に資する評価指標を算出できることも確認した. 今後は複数施策の最適なパッケージ化検討,ある都市圏を対象とした数値目標を達成するための交通戦略の検討や中心市街地活性化の評価など,ミクローマクロ(都市圏-地区)の両レベルで合意形成に資する評価指標を提供できる交通需要予測システムの開発に取り組んでいく予定である.
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