本研究では、中空ヒドロゲルファイバーを人工末梢神経組織の鋳型として使用することを提案している。本年度では、ゲルファイバー中空部内表面でのニューロンの接着、およびファイバーゲル部分でのシュワン細胞の伸展を可能にするファイバー材料の調製をまず行った。このような細胞と高い親和性を有する材料としてゼラチンゲルを選択した。無処理のゼラチンゲルは細胞培養に必要な37℃の条件下において溶解してしまう問題を有する。そこで、天然多糖類であるペクチンを部分酸化し、その分子骨格内にアルデヒド基を付与したペクチン誘導体をゼラチンの架橋剤として使用した。調製したペクチン誘導体で処理したゼラチンゲルは37℃の条件下においても完全に溶解することはなく、初期のゲル形状を維持していた。さらに線維芽細胞がゲル表面および内部で接着・伸展・増殖可能であった。また、Neuro2a(神経細胞株)やC6(グリア細胞株)を用いた場合でもほぼ同様の結果が得られた。以上より、ペクチン誘導体は細胞毒性が低く、さらにそれにより架橋したゼラチンはファイバー材料として有用であることが示された。次に、前年度に続いてゲルファイバー径のさらなる微少化に関する検討を行った。前年度のゲルファイバー調製行程に、新たに、包括細胞に対して傷害を与えない程度の引伸し行程を加えたところ、末梢神経の基本単位構造とほぼ同等のサイズの直径10μm程度のゲルファイバーを調製することができた。また、調製した細胞包括ゲルファイバーをラット体内に移植したところ、生体内でも包括細胞が生存していることを示唆する結果を得た。
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