研究概要 |
規範的な壁乱流の一つである平行平板間流れにおいて,層流と乱流間の遷移レイノルズ数域では大規模な空間的間欠性を有することが知られている.さらに,偏在した乱流場は,チャネル幅の約30倍の間隔をもつ縞状の構造,いわゆる乱流縞と呼ぶ秩序的構造を呈するが,それが発生するレイノルズ数域や運動量輸送・熱輸送に与える影響などの詳細なメカニズムは未解明であった.本研究では,大規模な計算領域を用いた直接数値シミュレーションを実施し,乱流縞を伴う平行平板間流れの熱流動特性を評価した.また,可視化実験およびLDVを用いた流速測定実験を行い,乱流縞のレイノルズ数依存性について調査した.得られた知見は以下の通りである.1,ボアズイユ流の乱流縞は摩擦レイノルズ数で56~80の範囲,クエット流では25~28の範囲で発生する.2,乱流縞の空間スケールは粘性長さでスケーリングされ,縞の角度は主流方向に対して20~30度傾いた構造を有する.3,回転系平面クエット流においても乱流縞は観察され,コリオリ力が流れを安定化させる方向に働くときはより高いレイノルズ数でも乱流縞は発生し得る.4,乱流縞の影響は熱輸送においても顕著であり,縞構造に沿って空間的に大規模な温度変動(乱流熱輸送)を起す.5,遷移レイノルズ数域であれば,層流中の発達した乱流斑点は乱流縞を呈するため,縞構造は初期条件に因らず遷移レイノルズ数域において本質的な現象であると示唆される.以上の得られた成果は,国際学会等で発表され,関心を集めている.遷移域の流れ場に内在する秩序構造について,その普遍性を解明したことは工学分野のみならず流れの不安定性問題に重要な指針を与えるものとなる.また,本解析対象は規範的な乱流場であり,本研究で得られたDNSデータベースは,乱流熱伝達に関する研究の進展や工業分野での熱流動特性の予測に大きく寄与するものである.
|