ポリマーナノコンポジット(NC)の優れた誘電特性に重要な役割を果たす樹脂/フィラー相互作用に着目し、複素誘電率や種々の分光計測より以下の成果を得た。 (1)エポキシの導電率はSiO_2添加では変化しないがTiO_2、AlO(OH)添加では高くなる。エポキシにはSiO_2フィラーが最適であり、AlO(OH)添加時にはフィラー分散剤からイオンが放出されると考えられる。 (2)ポリプロピレンにおける空間電荷蓄積量はNC化により増加する。分散剤による極性基導入等が原因で、これを抑制するには後処理が必要であろう。一方、耐部分放電性はフィラーによる劣化孔縮小効果等によりNC化で格段に向上する。 (3)ポリアミドにおいては導電率がNC化により低下する。電気的周波数とTHz帯における分極緩和時間が長くなることから、NC化により分子運動とイオンの移動が阻害されると考えられる。 (4)発展研究として種々の有機高分子絶縁フィルムの複素誘電率スペクトルと可視-真空紫外光吸収を比較し、禁制帯幅が誘電率と負の相関を持つことなどを確認した。 (5)密度汎関数法よりポリ乳酸のTHzスペクトルを解析した。結晶化度の増大に伴い50cm^<-1>付近に観測されるε_T"ピークは減少し、65cm^<-1>付近のピークが大きくなる。1本のオリゴマーモデルを用いた振動計算より、前者は分子螺旋軸方向の基準振動に由来し、後者は分子間相互作用が関与する振動であることが分かった。 (6)水トリー検出法としてのTHz分光法の適用可能性検討を行った。孔中に水を注入したポリエチレンとそれに交流電圧を1週間印加し水トリーを発生させた試料からは水分子の振動吸収に由来する吸収立ち上がりが4.0THz付近に観測される。
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