本研究の目的は、近年、フレキシブルな機能を有する電子デバイスとして注目されている有機トランジスタ(クォテリレン分子)と光感受性分子(フタロシアニン分子など)を組み合わせることにより、光-電界制御型トランジスタを開発することである。 平成20年度においては、下地となるクォテリレントランジスタの高性能化に成功し、2分子層程度でも良好に動作する薄膜トランジスタの作製に成功した。この結果を踏まえ平成21年度において我々は、光感受性分子としてPTCDI-C8分子をクォテリレントランジスタ上に2分子層程度成膜し、積層型トランジスタを作製した。その結果、PTCDI-C8分子がn型半導体、クォテリレン分子がp型半導体として動作するAmbipolarトランジスタの作製に成功した。さらに放射光光電子分光法を用い、1分子層程度で構成されるヘテロ界面での電子状態を評価することに成功した。この知見は、太陽電池など有機ヘテロ接合を利用するデバイスに応用できる。各薄膜のHOMO-LUMO準位について詳細に評価した結果、ヘテロ界面において電荷移動や界面ダイポールによるHOMO-LUMO準位の再構成は確認されなかった。この結果は、PTCDI-C8のアルキル鎖がバッファー層として機能し、母体となる両分子間での相互作用が小さいことに起因していると考えられる。ヘテロ界面における効果的な電荷移動を誘起させるために電子受容性が極めて高いF_4TCNQ(電荷移動錯体)を用いて積層型トランジスタを作製した。F_4TCNQ分子を蒸着することによりクォテリレントランジスタの閾値を変化させることに成功した。この結果から、有機ヘテロ界面を利用したデバイス制御が可能であることが示された。
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