Bohr速度v_0=2.19×10^6m/s以上の高速クラスターイオンの固体衝突による二次電子放出の近接効果(単原子イオン衝突の重ね合わせとは異なる効果)における構造と配向依存性及び発現機構を明らかにするため、クーロン爆発イメージ法で得られる解離イオン像と、固体薄膜の後方と前方の二次電子収量を衝突毎に同期測定する3重同期測定システムの開発を進めた。 併せてC_2^+による炭素薄膜の後方と前方の二次電子収量の同期測定を行い、近接効果の標的膜厚(70〜7500Å)と速度(1.6v_0〜3.2v_0)依存性をR_2=γ_2/2γ_1により評価した。γ_2とγ_1はC_2^+とC_1^+による二次電子収量であり、R_2≠1は近接効果の発現を意味する。後方では膜厚に依らず一定の近接効果R_2<1を観測した。前方では膜厚の増加に伴い近接効果が消失し(R_2<1→R_2=1)、1.6v_0では3000Åで完全に消失することを初めて観測した。軌道計算から薄膜出口での解離イオンの核間距離を導出し、前方のR_2を核間距離の関数で評価した。1.6v_0では近接効果が消失する核間距離の閾値は6〜23Å内にあり、その閾値は速度の増加と共に増大する速度依存性があることを明らかにした。発現機構を解明する上で重要な指標となる近接効果が消失する核間距離の閾値を同定したことは意義のある成果である。 高速単原子イオン衝突による固体からの二次電子放出機構は、(1)励起電子の生成、(2)表面への輸送、(3)表面障壁の透過の3つの過程で説明できる。(1)の近接効果は数Åの核間距離で消失するため、これより十分長い核間距離でも発現する二次電子放出の近接効果は、(2)(3)にも起因する可能性が高い。 そこで解離イオンが固体中に誘起するポテンシャルが輸送過程で二次電子放出を抑制するモデルを検討した。配向の違いが近接効果に影響を及ぼす可能性があり、今後C_2^+の配向依存性を実験的に明らかにする。
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