哺乳類の一部の遺伝子はいずれの親に由来するかによって発現量が著しく異なるゲノムインプリンティングという独特の発現制御を受ける。これまで、インプリンティングに必要とされる比較的広い領域は見付けられていながら、特定のタンパク複合体と相互作用すると考えられるcjs-制御領域の同定には至っていない。本研究では種特異性を示すインプリント遺伝子Impactに注目し、研究代表者が現在関わっているバイオインフォマティクスを生かして、これまで行われてこなかった多種間によるゲノム比較解析により、新規DNAメチル化標的配列の特徴付けを行った。遺伝子Impactは、ネズミ目およびウサギ目の種でインプリンティングを受け、それ以外のサル目、ウシ目などの哺乳類では受けないことが知られている。今回、前者16種、後者11種について、制御領域があるとされる第1イントロンの配列を独自に決定し、両グループで比較解析を行ったところ、前者においてのみ、8 bp離れたCpGが統計学的に有意に多く存在することが示された。その一方、これまで重要と考えられてきたリピートの有無や、CpGの頻度に有意な差は見いだされなかった。8 bp の間隔は、新規DNAメチル化を担うDnmt3a-Dnmt3L複合体にあると考えられている2つの活性部位の距離に対応するため、インブリンティングに重要な新規メチル化標的配列の重要な特徴であると考えられる。メチル化の異常ががんと深く関わっていることは指摘されて久しく、またー卵性双生児の疾病に対する感受性がメチル化の違いで説明できるようになり、新規メチル化はエピジェネティクスの中心的なテーマの一つである。本研究の成果はインプリンティングに限らず、医学研究にも容易に応用されうる意義のあるものである。
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