生物種間の相利的な共生関係は、両者がそれぞれの利益を最大化しながらも、互いの利益とコストの釣り合いが保たれている関係と捉えることができる。しかしこのような状態は、過剰に利益を搾取する個体の出現に対して脆弱であるため、こうした個体の出現を抑える何らかのメカニズムが存在が理論的に予測されている。 コミカンソウ科の一部の植物は、それぞれの種に特異的な種子加害者である、ハナホソガ属の蛾に送粉されている。ハナホソガはコミカンソウの雌花に産卵するが、その際、幼虫の餌資源となる種子が確実に生産されるように、能動的に雄花で花粉を集め、雌花へ運ぶ。孵化した幼虫は発達中の種子を食べて成熟し、食害を免れた種子が植物の次世代を担う。この共生系では、ハナホソガの雌が一つの花に卵を過剰に生んだ場合、種子が食い尽くされ、植物の繁殖が立ちゆかなく可能性がある。今年度の研究から、コミカンソウ科の一種のウラジロカンコノキでは、2つ以上の卵が産まれた雌花が選択的に中絶されていることが明らかになった。実際、ハナホソガはすでに卵が生まれている雌花を避けて産卵しており、選択的中絶の存在により、卵を過剰に産みっけるハナホソガ個体の進化が抑えられている可能性がある。 また今年度の研究から、日本産カンコノキ属5種、およびオオシマコバンノキ属1種では、ハナホソガの若齢幼虫がコマユバチ科の捕食寄生者による攻撃を受けていること、また寄生された幼虫はその時点で死亡するため、寄生によりハナホソガが食害する種子数が減少していることが分かった。こうした寄生による種子数の増加がどのような条件で共生系の進化的安定性に寄与するのかについて、さらなる解析を進めている。これらの知見は絶対送粉共生系の進化的安定性に、共生系の第三者である捕食寄生者が介在している可能性を示した点で、生物種間の共生系の理解に新たな展開をもたらすものと期待できる。
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