本研究はLEMタンパク質-BAF-染色体の結合安定化メカニズムを徹底した1分子解析により記述し、核膜の染色体ターゲッティング機構解明の基盤とすることを目的としている。今年度はLEMタンパク質であるemerinの細胞周期依存的な立体構造変化の検討と、BAF-染色体間の結合安定化のメカニズムを主に検討する予定であった。しかし、昨年度にemerinの精製条件や、BAFの染色体結合部位を検討するためのDam-BAF安定発現細胞株の取得が困難であったという問題が起こったため、これら問題の解決を優先した。 本研究で立体構造の解析に用いるNMRは、高純度なタンパク質の精製を必要とする。昨年度はHisタグ付きのemerinの不溶化などにより精製条件の検討が必要となったため、この至適化を行った。その結果、NMRに利用可能なemerinの精製に成功した。これを用いて非リン酸化状態の立体構造を測定したところ、emerinはLEMドメインと呼ばれるLEMタンパク質に共通の部位以外、決まった構造を取らないことが分かった。この結果はemerinがリン酸化されると構造変化が起こり、BAFとの結合が阻害されるという申請者のモデルと矛盾しない。現在はemerinをアフリカツメガエル卵の分裂期抽出液で処理し、リン酸化状態における立体構造の測定を行っている。 一方、Dam-BAFに関しては、一過的発現により細胞周期を通じて正しい局在を示すことは確認できたが、安定発現株を取得することはできなかった。GFP-BAFでは安定発現株を取得できたことから、Damタグが悪影響を及ぼすことが推察された。そこで、解析法をDamID法から通常のクロマチン免疫沈降法に変更し解析を進めている。
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