一個の前駆細胞から生じる娘細胞が互いに異なる機能・性質を獲得する非対称分裂は生物の発生過程において恒常的に認められる現象であり、生物の多様性を担う重要な現象である。分裂期にある神経前駆細胞内においても、運命決定因子(cell fate determinants)が細胞の極性に従って局在し、二つの娘細胞に不等に分配される事が次々に明らかとなった。しかし、最終的に神経細胞の運命決定を行っている因子やその分子メカニズムについては全く明らかにされていない。我々は神経前駆細胞の非対称分裂を解析する上で有用な系であるショウジョウバエの感覚母細胞(sensory organ precursor: SOP cells)の発生系譜を用いて関連因子の探索と解析を試みている。抑制性転写因子であるtramtrack69(ttk69)のdsRNAをSOP特異的に強制発現することでRNAiを行うと剛毛の消失が認められた。このときSOPから2個のpIIb細胞が生じていると考えられる。この表現型はdsRNAのコピー数依存的であった。この系統と一連の染色体欠失系統を交配する事で、表現型に影響を与える遺伝子領域のスクリーニングを行っている。さらに、得られた領域内にある遺伝子のdsRNAを過剰発現しうる系統との遺伝学的相互作用を解析する事で目的遺伝子の同定を試みる。哺乳類を用いた系では生体レベルでの網羅的なスクリーニングは技術的に困難であることから、本研究によって神経の発生過程における分子メカニズムを生体レベルで解明する事は、生物学のみならず基礎医学・再生医学の観点からも重要であると考えられる。
|