サンゴ礁の藻食性魚類の一種クロソラスズメダイは、藻食者の排除や除藻など集約的ななわばり管理を行い、糸状紅藻イトグサ属の1種の単作藻園を持つ。そのイトグサは極めて消化されやすく、スズメダイの主要な餌となる。一方イトグサは、このスズメダイの防衛がなければ藻食者に食べ尽くされ、除藻がなければ他の藻類との競争に敗れ消失してしまう。この、食う者と食われる者との間に芽生えた共生関係は栽培共生と呼ばれ、他にヒトと栽培植物、菌類を栽培する昆虫類にのみ知られる希な関係である。本研究では、インド-西太平洋のサンゴ礁域のスズメダイ類とイトグサとの栽培共生系の実態を明らかにするため、この海域に亘る8地点において、18種のスズメダイ類のなわばり内外から採取した藻類の分析を行った。形態観察と18S遺伝子に基づいてイトグサ類の分類を行った結果、沖縄と同一のイトグサ種が、モーリシャスとオーストラリアのいずれもクロソラスズメダイの藻園に見られたが、そこでは必ずしも優占していなかった。エジプト、ケニヤ、モルディブでは、近縁のそれぞれ別のイトグサ種がその藻園で優占していた。このように、クロソラスズメダイとイトグサとの栽培共生は、互いの依存度が多様で、かつパートナーシフトがありながらも、インド-西太平洋を通して維持されていることが明らかとなった。この結果について第11回国際サンゴ礁学会で発表した。 また、アフリカタンガニイカ湖は、シクリッド科魚類の適応放散で知られるが、その岩礁域では多種の藻食性シクリッドがなわばりを張り巡らせている。ここではシアノバクテリア類が一つの主要な餌となっている。7種のシクリッドのなわばり内外から採取した藻類群落を、16S遺伝子をマーカーとして分析した結果、藍色植物門の多岐にわたる種が見出された。そしてシクリッド種とシアノバクテリア種との間に種特異性が検出されつつある。
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