研究概要 |
本研究課題はミツバチの転写共役因子の分子機構の解明を目的とした.しかし,ミツバチの様々な組織から作成したcDNAを用いてPCRによるクローニングを試みたが,着目した4種類のすべての遺伝子においてPCR産物内に非翻訳部位や多数の終始コドンが含まれ,機能的な遺伝子として単離することができなかった.そこで実験対象をインフルエンザウイルスに変更し,RNAポリメラーゼPB2サブユニットの立体構造と機能解析に着手した.インフルエンザのRNAポリメラーゼPB2サブユニットは,その立体構造からRNA合成能とともにヒストン・アセチル化の機能を持つことが示唆されている.現在までに,大腸菌を用いてヒストン・アセチル化部位の組み換えタンパク質発現に成功した.今後は,これを用いて結晶立体構造を解析するとともに,生化学的実験によりヒストン・アセチル化能の有無を詳細に解析する. RNAポリメラーゼPAサブユニットはエンドヌクレアーゼ活性を持ち,宿主細胞のmRNAからキャップ構造を切り取って,これをプライマーとして自らのmRNAを合成することが知られている.そこで,PAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性を阻害する化合物はウイルスの増殖を抑える新薬になり得ると考え,探索を行った.その結果,緑茶カテキンとサリドマイド由来誘導体がPAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性を阻害し,特にサリドマイド由来誘導体はウイルスに感染した培養細胞の生存率を高める効果があることを発見した.緑茶カテキンとサリドマイド由来誘導体は3つのベンゼン環とそれに結合する多くの水酸基を持ち,分子シミュレーションの結果,PAサブユニットのエンドヌクレアーゼ活性を持つポケットにすっぽりとはまることが示された.今後は,上記のエンドヌクレアーゼ活性の阻害機能をより詳細に解析すると同時に,同様の機能を持つ新たな化合物の発見を目指す.
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