今年度は、深海泥・地殻中における真菌由来DNAのクローン解析を中心に行い、真菌が深海環境中に広く分布していること、またその新規性と多様性を初めて明らかにした。真菌は、深度1万メートルに達する深海泥からも検出され、検出された真菌の中には地上に広く分布するAspergillus属やPenicillium属も含まれたが、その多くは既知のデータベースとは低い相同性、もしくは相同性を全く示さない配列を持った新規性の高いものであった。これらの配列の5.8S rRNA保存領域をもとに系統解析を行ったところ、深海底泥には原始的な性質をもっか進化上重要なグループに属する真菌が多く存在する事が明らかとなった。そのいくつかは、ツボカビ門類に属するRozella allomycisとクレードを形成した。Rozella属は、真菌の中で最も初期に分岐した種として知られ、それらに近縁な種が深海環境中に見つかった事は、真菌の初期進化を考える上で非常に興味深い。また、採泥場所や深度にかかわらず、ほとんどの試料から検出された配列も存在した。この新規性の高い配列グループ(DSF-Group1)は、子嚢菌類に属し、最も近縁なのはCandida属(70%)であることが明らかになっている。このDSF-Group1と高い相同性を示すものが、中国南海域のメタンハイドレート層やカリフォルニア湾の嫌気バクテリアマット(いずれも深海環境)からも検出されており、この配列をもった真菌は深海環境中にのみ広く分布している事が推測された。DSF-Group1は深海で特殊に適応、もしくは進化した真菌である可能性が高く、今後これらの菌の分離や性状解析が進めば、非常に意義のある研究となる。 本研究の成果は、口頭発表として真菌の国際学会に選出され、受賞を受けた。この事からも、海底下地下生物圏における真菌研究の重要性が伺える。
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