今年度は、昨年度に引き続き深海泥・地殻試料中における真菌由来DNAのクローン解析を行い、真菌が深海底泥中だけではなく、海底下深度40mに及ぶ地殻中にも存在する事を初めて明らかにした。検出された配列の中には、既知のデータベースとは相同性を示さない新規性の高いものも多く含まれた。昨年度の研究で、深海底表層の泥から特定のグループ(DSF-Groupl)が高頻度に検出される事が明らかになったが、地殻試料中からも同様にこのグループが多数検出された。また、海底下深度40mに及ぶ地殻サンプル中からの真菌の培養にも成功した。分離株の多くはPichia属とAspergillus属に分類された。これらの分離菌の多くは従来の方法である「培地表面に試料を塗る」方法では分離できず、培地が固まる直前に試料を培地に直接混ぜて培養する方法でのみ分離する事ができた。 今年度は、地殻試料以外にも、深海環境から採取された海綿や貝類、海底に沈んでいた海藻などの生物試料からの真菌培養分離に成功し、100株を超えるこれら分離株について、同定試験や抗微生物物質スクリーニング等を行った。抗微生物物質を産生する株も数株確認できており、今後、応用研究へと繋がる可能性がある。 本研究によって、これまでにほとんど解明されていなかった海底下地下生物圏における未知真菌群集の多様性が予想以上に富んでいること、また海底地下奥深くまでに及んでいることが明らかになった。深海・地殻環境における生物多様性が重要視されつつある中にあって、本研究成果は生物科学上、非常に意義のある重要な知見である。
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