本年は、単純な形状の模型実験より得られた結果とその弾塑性有限要素解析による検討をもとに、堰基礎地盤の浸透破壊メカニズムの検討を行った。また、設計基準「頭首工」に記載されていた実務において用いられている浸透破壊安定計算手法を再検討し、その有効性と限界を明らかにした。 設計基準をもとに現場において最もよく用いられるクリープ比を用いた手法に関しては、より詳細な検討を行い問題点の一端を明らかにした。クリープ比を用いる方法には、Blighの式とLaneの式の2つが主に用いられている。この2式は両者とも浸遠路長をその検討基準としている。そこで、模型実験において浸透跡長をそろえた実験を数パターン行った。その結果、根入れしている部分の深さが異なると浸透破壊の起こる水頭差が異なることが明らかとなり、浸透路長を基に計算されるクリープ比の計算では浸透破壊の起こる水頭差を予測することが難しいことが分かった。これまで、事故例が少なかった要因は、過大に大きな安全率であることも明らかとなった。 その他の安定計算手法としては、限界流速による方法とTerzaghiの方法がある。これらの方法について同じ模型実験の結果を基に検討を行った。限界流速決は堰基礎の浸透破壊水頭差の予測手法として十分な精度を発揮し得ないことが明らかとなった。また、Terzaghiの方法は弾塑性有限要素解析によるメカニズムの検討によって、堰基礎においても浸透破壊を生じる破壊水頭差を精度良く予測できることが明らかとなった。 本年の研究により、設計基準となっていた浸透破壊の安定計算手法の有効性と限界が明らかとなり、平成21年2月に発行された新設計基準では、浸透破壊の予測手法として本研究で行った弾塑性有限要素解析手法が数値計算手法として初めて記載された。また、本研究の成果をまとめ、国際会議での発表以外にカザフスタン共和国の2大学、ロシアの水利工学研究所にて講演を行った。
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