申請者が宮城県大崎市の環境保全型水田で行っている調査から、大型のクモ類密度が高い環境保全型水田では、イネ害虫であるアカスジカスミカメ(以下アカスジ)の密度や被害程度が低いことが示された。このことから、クモ類は土着天敵としての機能を果たしていることが期待されるが、この結果は必ずしもそれらの捕食被食関係を証明するものではない。そこで本研究では、最近注目され始めている害虫のDNAマーカーを用いた土着天敵の胃内容分析を行うことで、水田内に生息する斑点米カメムシ類がクモ類に食べちれているかを確かめ、その捕食率を定量化することで、クモの土着天敵としての重要性を評価する。20年度は、野外においてアカスジを頻繁に捕食するクモグループの特定と、クモ類によるアカスジ捕食数解明のために必要なクモ類のアカスジ消化速度の推定を行った。 2008年8月、アカスジが多数生息している環境保全型水田3枚を対象に、アカスジよりも大型なクモを多数採集し、クモ個体ごとにアカスジのDNAマーカーを用いた胃内容分析を行った。その結果、胃内容からアカスジDNAが検出されたクモ個体は、アシナガグモ科で平均5%、コモリグモ科で平均15%であった。このことは、これらのクモ類がアカスジを高頻度に捕食しているこどを示唆するものである。次にこれら2グループのクモのアカスジの消化速度を測定するため、室内実験を行った。その結果、アシナガグモ科は1日に平均0.5匹のアカスジを消化するのに対し、コモリグモ科は1日に平均0.14匹消化することがわかった。21年度は、さらに多くの環境保全型水田において各クモグループによるアカスジ捕食率を調べ、消化速度と考え併せて土着天敵としての重要性を明示的に評価する。
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