本研究は、害虫DNAマーカーを用いた土着天敵の胃内容分析を行うことで、環境保全型水田に生息するイネ害虫アカスジカスミカメ(以下アカスジ)が土着天敵であるクモ類に捕食されているかを確かめ、その捕食数を定量化することを目的とした。21年度は、環境保全型水田におけるクモ類によるアカスジ捕食数を推定するため、クモ類のアカスジ消化速度の推定のための室内実験と、多数の水田から採集したクモ類の胃内容分析を行った。まず実験室において、十分に絶食させたクモ類にアカスジ成虫を捕食させ、DNAの検出率に影響する要因を検討したところ、検出率は捕食後時間が経つにつれて減少し、気温が高いほど早く減少した。捕食されたアカスジのDNAは、25℃の条件下でアシナガグモ類から最大2日間、コモリグモ類から6日間検出可能であることがわかった。 次に、アカスジの密度がさまざまに異なる環境保全型水田20枚を対象に、比較的大型なクモを多数採集し、クモ個体ごとにアカスジのDNAマーカーを用いた胃内容分析を行った。個体ごとに体内のアカスジDNAの有無を調査したところ(総分析クモ1199頭)、アシナガグモ類、アゴブトグモ類、コモリグモ類という3つのクモ類が頻繁にアカスジを捕食していることがわかった。また室内試験で求めた捕食後時間とDNA検出率との関係から、水田のクモが捕食するアカスジの数を推定した。3グループすべてでクモ1頭1日当たりの推定捕食数は水田内のアカスジの密度が高いほど多い傾向が見られたが、アシナガグモ類とコモリグモ類では飽和が認められた。これら2グループのクモ類は最大3-7%の個体が1日につき1匹のアカスジを捕食することがわかった。今後は、これらの結果を統合してクモ類が水田内のアカスジの密度に与える影響を評価する。
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