本研究は、害虫DNAマーカーを用いた土着天敵の胃内容分析を行うことで、環境保全型水田に生息するイネ害虫アカスジカスミカメ(以下アカスジ)が土着天敵であるクモ類に捕食されているかを確かめ、その捕食数を定量化することを目的とした。環境保全型水田におけるクモ類によるアカスジ捕食数を推定するため、多数の水田から採集したクモ類の胃内容分析と、アカスジ1匹を捕食した後のDNA検出時間推定のための室内実験を行った。 水田内で優占している3グループのクモを対象に、クモ1個体あたり・1日あたりのアカスジ捕食数を推定したところ、その値は水田間で大きく異なったものの、最大でコモリグモ類で0.04、アシナガグモ類で0.03、アゴブトグモで0.07となり、各クモグループによるアカスジ捕食数は極めて低かった。そのため現状では、クモ類のみによるアカスジ密度の抑制効果を期待するのは難しいだろう。こうしたクモ類の害虫抑制効果を高めるには、水田生態系における天敵の多様性を増加させる管理を行うことが必要であると考えられた。
|