本研究ではタイプの異なる種子貯蔵物質であるタンパク質と脂質に関して、イネおよびゴマを用いて、種子特異的な高蓄積に関わる転写活性化機構の解明を試みている。本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)イネの種子貯蔵タンパク質遺伝子の発現には、少なくとも2種の転写活性化因子(RISBZ1とRPBF)が関与することが、in vitroの実験系や培養細胞を用いた研究によって明らかとなっている。RISBZ1とRPBFのin vivoにおける作用を調査するため、両転写因子の発現抑制株の解析を行った。その結果、これら2種の転写因子がin vivoにおいても種々の種子貯蔵タンパク質遺伝子の発現に関与すること、および転写活性化の際に互いに相乗的に作用することを明らかとした。加えて、RISBZ1とRPBFは貯蔵油脂や貯蔵デンプンの発現にも直接的もしくは間接的に関与することも明らかとなった。 (2)ゴマ種子の含油率は約50%と他の油糧作物と比べて高い。しかし、ゴマの種子貯蔵油脂生合成系遺伝子に関する知見は極めて少ない。そこで、本年度は(i)ゴマより貯蔵油脂の生合成に関与すると考えられる遺伝子10種の部分配列を単離し、そのうち3種についてプロモーター領域を決定した。また、これと併せて種子貯蔵タンパク質遺伝子6種のプロモーター領域についても決定した。(ii)シロイヌナズナで種子貯蔵油脂生合成酵素遺伝子の転写を活性化すると報告されているWrinkled1(WRI1)のゴマにおける相同遺伝子についてもcDNAおよびゲノム配列を決定した。(iii)ゴマ緑葉を用いた一過的発現実験系を確立した。今後はプロモーター領域および転写活性化因子のクローニングを続けるとともに、一過的発現実験により、クローニングした転写活性化因子が貯蔵油脂生合成系遺伝子の発現制御に関与するか否かについて解析を行う予定である。
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