世界中には数多くの肉食性昆虫が生息している。一般的にアリジゴクとして知られている吸汁性肉食昆虫であるクロコウスバカゲロウの幼虫は、捕食の際に大顎をえさ昆虫に突き刺して、消化酵素を含む吐き戻し液を注入することにより体外消化を行っている。これまでに、この幼虫の吐き戻し液から即効的に昆虫を麻痺させるタンパク質とともにいくつかの昆虫病原性細菌ならびにそれら細菌が生産する殺虫性タンパク質を単離し、それらの作用機構を明らかにしてきた。本研究では、ウスバカゲロウと同じ脈翅目に属する昆虫で、生物農薬としても用いられていることから飼育が容易なクサカゲロウに着目し、その幼虫が用いる麻痺成分を単離することを試みた。 まず対象昆虫としてニッポンクサカゲロウ(Chrysoperla nipponensis)を用いることとし、餌であるエンドウヒゲナガアブラムシ(Acyrthosiphon pisum)とともに大量飼育を試みた。次に、ニッポンクサカゲロウの幼虫から得られた活性画分を炭酸ガスにより麻酔したイエバエ(Musca domestica)オス成虫に注射投与した。その結果、注射したイエバエは麻酔状態から回復することがなく、そのまま死に至る症状が観察された。今後、この毒素の一次構造を明らかにして、このアミノ酸配列をコードする遺伝子を解明することを試みる。この情報をもとにして、組換え体タンパク質の作成を試み、殺虫活性発現機構を解明する研究へと展開させていく。
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