カーボンナノチューブ(CNT)は優れた機械・電気・熱特性を有し、ナノテクノロジー分野で注目される素材である。その特性を応用し、CNTをフィラーとする高分子複合体は精力的に研究されているが、CNTの比表面積が非常に大きく凝集しやすいことから単一分散が困難であることが開発の壁となっている。また、同様の強い分子間力による高強度素材として構造性多糖であるセルロースも期待されている。例えばセルロースナノファイバーは同じ重量の鋼鉄に比べて約5倍の強度をもつという報告があるが、セルロースは一般に溶媒に難溶である上、単純なブレンド化ではその強度を発揮できない。 本研究では「非水系糖鎖合成技術」を応用し、分散したCNT上で糖鎖の合成を行い、分子レベルで糖鎖とCNTを複合化することで、CNT/糖鎖(セルロース)双方のポテンシャルを活かした高強度素材の創成を目指している。本年度は、(1)酵素を被覆するポリマーの探索、(2)酵素由来別のセルラーゼの最適化、(3)CNT分散能をもつ糖誘導体の合成を行った。 (1)数種類の両親媒性ポリマー(分子量2000〜20000)を用いて、被覆酵素を調製し、非水系糖鎖合成を行った。その結果、ポリビニルピロリドンで被覆した場合、界面活性剤被覆酵素と同等の収率が得られた。ポリマーを使用することで、被覆酵素調製時に有機溶媒を使わず、水溶液のみで行える利点がある。 (2)Trichoderma属、Aspergillus属由来の数種類の酵素をポリビニルピロリドンで被覆し、非水系糖鎖合成を行った。その結果、非水系条件下ではTrichoderma reesei由来の酵素の収率が最も良かった(5.4%)。 (3)CNTを分散させかつ糖鎖合成の起点となるような両親媒性の糖誘導体を新たに合成した。末端の糖の結合様式や種類を変えてCNTの分散について検討した結果、いずれも良好な分散が確認された。興味深いことに、今回合成した糖誘導体は、末端の糖の種類によっては低分子ヒドロゲル化能をもつことを見いだし、カーボンナノチューブ分散ゲルが容易に調製できることがわかった。今後、この素材とCNTを組み合わせることで、バイオ応用への展開も期待される。
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