タバコの栽培種Nicotiana tabacumと野生種(Suaveolentes節)を交雑すると、多くの組合せで雑種致死が認められる。雑種致死とは、雑種胚あるいは雑種個体が生育の途中で遺伝的に致死する現象であり、生殖的隔離機構の一種である。このような機構は進化の過程で重要な役割を果たしてきたと考えられているが、その一方で遠縁交雑による品種改良を行う際の障害となる。これまでに、N.tabacumと交雑しても雑種実生に致死性の現れない野生種を2種見出しており、これらの種を利用した遺伝学的な研究を試みている.本年度は、N.tabacumと交雑しても雑種致死の現れない野生種を、雑種致死の現れる野生種と交雑し、雑種を作出することを試みた。数組合せで交雑を行ったところ、交雑組合せによって、受粉しても1週間ほどで花が落下してしまい結実しなかったり、種子は得られるが発芽しなかったりすることが明らかになった。これらの交雑組合せでは、雑種を得るために胚珠培養などの技術を利用する必要があると考えられた。今後は、交雑組合せの数を増やしていく予定である。また、野生種N.occidentalis(Suaveolen節)とN.tabacumを交雑すると雑種致死が現れることを新たに示し、この雑種致死について遺伝解析を行った。その結果、N.tabacumが持つ2つのゲノムの両方に雑種致死の原因となる因子が存在することが示唆され、これまでに報告してきたN.tabacumの片方のゲノムのみが関与している雑種致死とは異なることが明らかになった。
|