脂肪組織における炎症性変化の増悪は、インスリン抵抗性を基盤とする糖尿病等のメタボリックシンドロームの発症・進展に深く関与している。従って、脂肪細胞の炎症制御機構を解明することは、病態予防・改善を考える上で重要である。本年度は、脂肪細胞のFFA分泌制御機構に対する柑橘類フラボノイド(ヘスペレチン、ナリンゲニン)の作用メカニズムの解明を行った。さらに、脂肪組織の炎症増悪に関与するToll-like receptor(TLR)の脂肪細胞における発現制御とTLRシグナルに対する柑橘類フラボノイドの影響を検討した。 1.3T3-L1脂肪細胞を用いて、脂肪細胞の炎症モデルの1つであるTNF-α刺激によるFFA分泌に対するフラボノイド(ヘスペレチン、ナリンゲニン)の影響を検討した。その結果、これらのフラボノイドは、細胞内シグナル伝達経路のNF-κB及びERKの活性化阻害を介してFFA分泌を抑制した。フラボノイドによるERK路の阻害は、FFA分泌に関連するPerilipinとPDE3BのTNF-α誘導性の発現量低下を回復した。一方、フラボノイドによるNF-κB経路の阻害は、IL-6の初期誘導を阻害することで、IL-6のAutocrine作用によるFFA分泌を抑制することを示した。 2.脂肪細胞におけるTLR2の生理機能的意義を解明するために、TLR2のsiRNAを用いてノックダウンを行い、種々のアディポカインの発現量変化について検討を行った。その結果、動脈硬化等の危険因子として知られているPAI-1の基礎発現量が低下することを見出した。また、脂肪細胞におけるTLR2シグナルに対するフラボノイドの影響を評価するため、TLR2の特異的リガンドであるPGNを用いて脂肪細胞を刺激し、アディポカインの発現量変化を測定した。その結果、フラボノイドは、PGN誘導性のMCP-1の発現量を抑制した。
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