豚レンサ球菌は豚や人に髄膜炎や敗血症等の重篤な疾病を引き起こす人獣共通感染症起因菌であるが、その病原因子についてはほとんど分かっていない。そこで本研究課題では、感染に重要な宿主への定着に寄与する線毛に着目し、豚レンサ球菌の線毛様構造の発現に関わると予測される遺伝子領域が実際に線毛形成に関与している事を証明するとともに、線毛形成における各遺伝子の役割及び菌の宿主定着能への関与について明らかにする事を目的としている。 本年度はまず、前年度作製した線毛構成タンパク質に対する抗血清及び線毛関連遺伝子破壊株と遺伝子相補株を用いて、免疫ブロット法や免疫電子顕微鏡法を行い、菌体表層に線毛が形成される事を実証した。また、本線毛は既報の線毛とは異なり、組立てに重要でないと考えられていた構成タンパク質が組立てに必須である事を明らかにし、さらなる解析でその組立てに重要なアミノ酸残基も同定した。つづいて、菌の動物体内での定着に着目し、本線毛と動物組織の構成成分であるコラーゲン等の細胞外基質や豚血小板との接着を解析したところ、遺伝子破壊により線毛を欠失した株と野生型株との間で有意な差はなかった。しかし、解析の過程で、本線毛は低温(20-30℃)で発現が上昇する事を見出した。そこで、豚の様々な部位の体表温度を測定した結果、線毛発現に最適な20-30℃である事が明らかになり、本線毛が宿主生体内よりも宿主体表あるいは環境中で機能している事が強く示唆された。さらなる解析で本線毛が認識する標的物質を明らかにし、実際に病原性に寄与することを証明できれば、線毛はワクチン候補分子としても利用されている事から、菌を宿主に定着させないための粘膜免疫を誘導する新規ワクチンや接着標的の阻害など本菌防除法の開発にもつながる事が期待される。
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