平成20年度の結果から、JCV T抗原は様々なプロモーターに作用して転写活性を亢進するが、こうした非特異的な転写亢進は、感染許容細胞であるIMR-32細胞において特に顕著であり、JCV感染の細胞特異性を規定する一つの要因となっていると考えられた。本年度はウイルス後期タンパク質発現にスプライシングやnonsense-mediated mRNA decay(NMD)経路が関与している可能性を検討するため、JCV感染細胞におけるカフェインの影響を検討した。その結果、後期タンパク質への影響は見られなかったが、早期タンパク質の発現がカフェイン処理により顕著に減少することが判明した。カフェインは早期遺伝子プロモーター活性やタンパク質分解に影響を与えなかったことから、早期遺伝子mRNAの翻訳に至る過程で何らかの影響を与えている可能性が考えられ、Alternative Splicingの誘導やNMD阻害作用が関与しているかを含めて現在詳細な検討を行っている。 カフェインにより早期タンパク質発現が低下することから、JCVの増殖抑制に有用であると考え、カフェインのウイルス増殖抑制効果を詳細に検討した。JCV感染後のIMR-32細胞にカフェインを3-9日間加えた結果、ウイルスタンパク質量が減少し、ウイルス感染価は検出限界以下に低下した。ウイルスゲノム複製に与える影響についても検討を行ったところ、カフェインはウイルスゲノム複製量を減少させることが判明した。このウイルスゲノム複製抑制の機序に関しては、カフェインのATM/ATR阻害作用によりウイルスゲノム複製の維持に必要な細胞周期のG2期停止が解除し、その結果ウイルス複製効率が低下することが判明した。 以上の結果から、カフェインはJCVの早期タンパク質発現ならびにウイルスゲノム複製を抑制することから、JCV感染抑制薬として有用である可能性が示唆された。
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