2003年以降、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルスは400人を超えるヒトに感染し、約6割を死亡させていることから、ヒトでの伝播能を獲得して、パンデミックを起こすことが危惧されている。我々は、本ウイルス感染者は烏インフルエンザウイルスに対するレセプターを上部気道に発現している特殊な人であり、一般の人がウイルスに感染しないのではないかと考え、これを立証する研究を遂行している。 本年は、糖鎖レセプターを特異的に認識するレクチンを用いて、ヒトの上部呼吸器細胞に発現するインフルエンザウイルスレセプターの免疫染色法を検討した。ヒトのインフルエンザウイルスに結合する糖鎖レセプターを認識するSambucus nigra(SNA)レクチンおよび鳥インフルエンザウイルスに結合する糖鎖レセプターを認識するMaackia amurensis(MAA)レクチンは、鶏発育鶏卵、MDCK細胞およびヒト胎児腎臓由来(HEK293T)細胞にてインフルエンザレセプターを認識し、検出可能でことが確認された。しかしながら、ヒトの咽喉頭拭い液を用いた免疫染色では、検出は困難であり、臨床サンプルを用いた免疫染色法には、さら'なる条件検討が必要であると考えられた。 また、ヒトでの糖鎖レセプター発現を担うシアル酸転移酵素(ST)の遺伝子の分子種の同定およびシークエンス解析を実施した。鳥インフルエンザウイルスの結合する糖鎖レセプターに関わる分子であるST3には複数の分子種があることが知られているが、HEK293T細胞からmRNAを抽出し、解析を行ったところ、調べた6種のST3分子すべてが発現していることが明らかとなった。このことは、臓器特異的に鳥インフルエンザウイルスレセプターが発現していることを示しており、今後上部気道由来細胞由来の遺伝子を解析する際の重要な知見であると考えられた。
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