統合失調症とアスペルガー症候群、学習障害(読み書き困難)の社会認知障害の異同について、検討するために、運動視知覚と社会知覚を行動的方法で検討した。 (1)運動視検出課題(coherent motion検出課題)を用いて評価した運動視能能力について、健常者群、統合失調症患者群、アスペルガー障害群に加えて読み書き困難者でも検討した。アスペルガー障害患者群は協力が得られた参加者が結果的に少なく、統計的検討は行わなかった。統計検定を行った統合失調症患者群、読み書き困難群で有意に低下する傾向が見られた。このことから、統合失調症患者では運動視能力が低く、背景に大細胞系視覚の脆弱性が存在することが示唆された。 (2)Biological motion(社会知覚) Biological motion検出課題を用いた社会知覚能力について、健常者、統合失調症患者、アスペルガー障害群に加え、読み書き困難者でも検討行った。読み書き困難、アスペルガー障害群は例数が少なく統計的検討は行わなかった。検定を行った健常者群と統合失調症患者での比較では、統合失調症患者群で有意に社会知覚弁別閾値が低下していた。読み書き困難、アスペルガー障害群は健常者群とあまり変わらない傾向が見られた。 なお、運動視課題による運動視閾値と社会知覚課題における社会知覚弁別閾値の相関を検討したところ相関が見られた。社会知覚は運動視よりも高次の認知処理過程であるので、運動視に反映される大細胞系視知覚は社会知覚の律速因子(制御因子)であると考えることができる。統合失調症ではアスペルガー障害と異なって、大細胞系視知覚の低下が社会認知障害に強く寄与していることが示唆される。
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