研究課題
これまで国内において遺伝性エナメル質形成不全症(AI)や遺伝性象牙質形成不全症(DGI)を疑う症例報告は数多くなされていたが、責任遺伝子の変異を同定した報告は殆どなかった。そこで、本疾患の病態を解明し治療へ応用することを目的として、AIおよびDGI患者の検出ならびに原因遺伝子変異の検出を試みた。今後、AIおよびDGI症例の遺伝子解析を重ね、複数存在するAI・DGIの原因遺伝子と臨床所見との関連を整理し、従来の臨床像による分類から、原因遺伝子に基づく分類への再編成を検討している。さらに、同定した変異アメロジェニン蛋白の性状を次のような方法で検討している。正常人歯胚から全長アメロジェニンcDNAをクローニングし、蛋白発現ベクターに組み込んで、その蛋白発現を確認した。これまで報告されているエナメル基質蛋白の機能解析は、ブタ-ウシ歯胚から抽出したものや、ブタの遺伝子を蛋白発現ベクターに組み込み大腸菌で合成させたものが主体で、ヒトアメロジェニン蛋白をin vitroの系で発現させて研究した報告はなかった。この合成ヒトアメロジェニン蛋白を用いた研究は、歯の発生期におけるエナメル質形成のメカニズムの解明だけでなく、歯の再生医療分野においても有益な情報を与えてくれるものと確信している。現在歯周病治療やインプラント治療に広く臨床応用されている「エムドゲイン」はブタ歯胚より抽出したエナメルマトリックスタンパクを使用しており、その組成の90%以上をブタアメロジェニンタンパクが占めている。合成ヒトアメロジェニン蛋白は「エムドゲイン」に代わる、ヒト由来の副作用の少ない治療薬としての可能性があるといえる。これらの成果をもとに、分子レベルでの歯の発生メカニズムの解明、歯科領域における遺伝性疾患の発症前診断をふまえた予防的治療を当面の課題とし、将来的には遺伝子治療・再生医療を含めた病態治療への応用を目標としている
すべて 2008
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Blood Cells, Molecules, and Diseases 40
ページ: 410-413