我々の生活空間にあふれる電磁場の種類と量は急激に増加している。医療分野では核磁気共鳴装置(MRI)に代表される画像診断分野において定常磁場(SMF)の利用が進んでいる。近年、取得画像の高解像度化を目的としたMRIの強磁場化が国際的な流れとなっているが、一方でそれに伴う強力なSMFの生体影響評価の詳細な点が多く残されている。とりわけ酸化ストレス高感受性細胞である造血幹細胞の分化・増殖過程におけるこれら強力なSMFの影響についての報告はほとんどない。本研究では、ヒト造血幹・前駆細胞を用いて、強力なSMFの影響を血液学、分子生物学レベルで明らかにすることを目的とした。 強力なSMFを曝露させたヒト臍帯血由来造血幹・前駆細胞であるCD34陽性細胞を半固形培養法により、タンパク性生理活性因子であるサイトカインを複数組み合わせ、骨髄系細胞に分化誘導し、造血前駆細胞由来コロニー形成能を評価した。その結果、10テスラのSMF下でCD34陽性細胞を16時間曝露すると、赤血球前駆細胞と巨核球前駆細胞由来コロニー数はshamコントロールに比べそれぞれ1.72倍、1.77倍と有意な増加を示した。このとき10テスラのSMF下16時間曝露CD34陽性細胞の遺伝子発現状況を定量RT-PCRで解析した。その結果、早期造血関連遺伝子であるKIT、GATA2、RUNX1、TELや細胞周期関連遺伝子であるCDC25B、ERN1がshamコントロールに比べそれぞれの発現が有意に増加した。 本研究からヒト造血幹・前駆細胞に対する強力なSMFの長時間曝露は、赤血球・巨核球系分化を特異的に亢進させ、その関連遺伝子の発現に変動を与えることが明らかとなった。
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