本年度は、肺非小細胞癌105例に対し免疫組織化学染色を行い、ホルモン受容体(ERα、ERβ、PR)とアロマターゼの発現を調べ、臨床病理学的因子との関係を検討し、ホルモン受容体とアロマターゼ発現の関係を検討するとともに、細胞株を用いたin vitroの実験をした。免疫組織の結果、肺非小細胞癌ではアロマターゼとERβが高率に発現し、アロマターゼの発現とERβの発現は有意に相関していた。アロマターゼが局所のエストロゲン産生に寄与し、ERβを主としたエストロゲン作用の働きが示唆された。アロマターゼの発現と臨床病理学的因子の間に有意な相関は見られないが、ERβの発現はリンパ節転移と負の相関を呈した。なお、増殖能およびアポトーシスと、アロマターゼERβの発現に有意な関係は得られなかった。アロマターゼ発現の見られる群でERβが発現している群では、発現しない群に比して有意に腫瘍径が小さかった。また、in vitroでは、アロマターゼとERβを発現した肺腺癌細胞株をエストロゲン枯渇状態においた後に、エストロゲンを添加した群はしない群に比してERβが減少するという、エストロゲンによるERβのdown regulationの可能性が示唆された(追加確認実験中)。他臓器癌において、ERβは腫瘍抑制因子と考えられている。肺小細胞癌ではERβ陰性が大型の腫瘍に見られることより、局所の高エストロゲン状態を調整する主な因子であるアロマターゼを阻害することがERβのdown regulationを妨げ、癌のさらなる悪性化を阻止する可能性を考えた。本年度の研究実施計画は約1/2が達成され、残る1/2および来年度実施計画の一部については現在進行または準備状態にあり結果まで至らないが、本研究の目的であるアロマターゼ阻害薬による肺小細胞癌治療における可能性を高めるとともに、有効治療群を特定するために重要な因子がERβまたはERβの応答遺伝子にある可能性が得られたという意味で、本年度の研究成果は大変意義があると考える。
|