研究概要 |
本研究の目的は、細胞膜の流動性の差を画像化することによって、癌部と非癌部を鑑別しうる光学システムを構築することである。平成20年度は細胞レベルでの検討や担癌動物による検討を通して癌領域診断の至適条件を決定し、臨床応用を検討する。a)in vitroでの結果 我々は1990年にラット正常胃粘膜由来の培養細胞であるRGM-1細胞を樹立しているが、in vitroにおいて、同細胞よりニトロソグアニジン(MNNG)起因性癌様変異株(RGK-1細胞)を樹立した。RGK-1細胞はRGM-1細胞には認められない(1)非足場依存性増殖(2)遊走能(3)ヌードマウスにおける腫瘍形成能を有していた。胃培養細胞においてMNNG由来の癌様変異株は存在しないため、この一組の細胞は診断・治療の研究に有用なツールである。本研究者は、同細胞群を使用し、蛍光偏光解消法システムにてその差違が検出可能であることを検討した。その結果癌様変異株RGK-1細胞の蛍光偏光解消値(FP値)は正常細胞であるRGM-1細胞のFP値に比較して有意に小さく(1±0.093vsO.73±0.111,p<0.001)、癌細胞では正常細胞に比較して流動性が亢進していることが示された。 b)ex vivo(rat)での結果 アゾキシメタン(発癌物質・AOM)誘発大腸腺腫モデルにおける観察では、HE染色にて腺腫と確認された領域のFP値は、正常粘膜領域のFP値と比較して有意に大きかった(1.10±0.45v.s.2.57±0.69,p<0.01)。AOM誘発大腸腺腫モデルでは腺腫領域の細胞膜流動性が正常組織に比較して低下していることが示された。特筆すべきは蛍光偏光解消法ではFP値によるイメージングが可能であった点である。これにより通常光観察では発見されにくい初期病変や領域診断の難しい症例において、同法が有用である可能性を示した。
|