研究概要 |
【目的】細胞膜流動性の相違を画像化することによって、癌部と非癌部を鑑別しうる光学システムを構築し、細胞膜流動性の相違を診断根拠とした全く新しいコンセプトに基づいた内視鏡診断方法を目指すことである。【方法】内視鏡へ応用可能な蛍光偏光解消法(FP)という手法を搭載した蛍光顕微鏡装置を構築し、(1)培養細胞系・(2)実験発癌動物モデル(3)ヒト胃癌検体において、細胞膜流動性の観点(FP値)から癌部と非癌部を判別できるか否かをin vitro及びex vivoにて検討した。【結果】(1)正常細胞(RGM)と癌細胞細胞(RGK)のFP値を比較すると1.0±0.16v.s.0.73±0.18,p<0.01であり、FPは両細胞を細胞膜流動性の違いとして検出可能であった。(2)実験発癌動物モデルにおける正常部と腺腫部(aberrant crypt)のFP値は、各々1.0±0.45v.s.2.57±0.69,p<0.01,(N=6)であった。FPは組織においても培養細胞系の結果と同様に、腺腫部・非腺腫部を検出可能であった。(3)ヒト胃癌部におけるFP値は、非癌部のそれと比較し、1.0±0.12v.s.0.50±0.08,p<0.005,(N=20)と低下しており、癌部において膜流動性が亢進していることが示唆された。これらの結果は脂質二重層という細胞膜の物理的性質(流動性)が癌と正常細胞において相違があることを示唆する。【考察】今回検討した蛍光偏光解消法は細胞膜流動性をFP値として表すことが可能であり、病変を数値によって評価可能である。これは癌の領域診断が困難な症例において、同法によって客観的数値診断が可能であることを意味しており、その臨床上のメリットは大きい。また生体にとって危険な領域の励起光を用いず、低毒性の蛍光色素を用いるという非侵襲性に加えて、細胞膜の流動注変化という病態生理を反映した現象を捕捉することが可能であるため、カプセル内視鏡といった新世代内視鏡における光学的生検方法として有効性を示す。
|