癌を形成する細胞集団の中には、腫瘍形成能に長け、同時に抗癌剤を排出するトランスポーターの発現が高く、癌の再発に大きく寄与する癌幹細胞が同定されている。本研究では腫瘍間質由来のTGF(Transforming growth factor)-βのスキルス胃癌幹細胞の制御に対する作用について研究している。 平成20年度は、癌細胞集団のheterogeneityに関する実験病理学的検討、および薬剤排出能に関わるABCG2/BCRP遺伝子発現の生化学的検討、を行った。その結果として、(1)スキルス胃癌細胞株OCUM-2MLNは、腫瘍形成能の商いSide population 細胞(SP細胞)と腫瘍形成能の低いnon-SP細胞、からなるheterogeneousな癌細胞集団であること、(2)OCUM-2MLN細胞に腫瘍間質由来のTGF-βが作用すると、SP細胞が消失し、腫瘍形成能が喪失すること、(3)反対に、OCUM-2MLN細胞に変異受容体を導入し、TGF-βに対する不応性を獲得させた場合には、腫瘍形成能が促進すること、(4)SP細胞の薬剤排出能にはトランスポーターABCG2/BCRPが大きく関与しており、ABCG/BCRP遺伝子の転写が、TGF-βにより負に制御を受けていること、等の結果が判明した。 現在はSP細胞集団の特性を理解し、新規の治療標的を捜索する研究に取り組むとともに、これまでの研究成果を論文投稿する準備もすすめている。
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