研究概要 |
我々は本研究を開始するにあたり,マウスのTgfβ1遺伝子に対するshort hairpin RNA (shRNA)をアデノ随伴ウイルス2/5型(AAV2/5)に搭載し,これをマウス由来の線維芽細胞である3T12-3細胞に投与してTgfβ1をタンパクレベルで抑制することに既に成功していた.本年度は条件の最適化を行った. まず,shRNAを発現するにはRNA polymerase IIIプロモーターを用いるのが一般的であるが,RNA polymerase IIIプロモーターの方が良いとする知見が複数報告されているのを受け,両プロモーターの比較を行った.その結果,Tgfβ1タンパクの発現抑制に有意差は認めなかった. その過程において上記AAVをマウス肺胞上皮由来の細胞株であるLA-4に投与する実験を行った.その結果,3T12-3細胞と比較して2%のウイルス量で同等の遺伝子導入効率が得られた.そのため,我々は当初の計画にあった動物実験を延期し,in vitroの実験を継続する方針とした. その結果,上述の遺伝子導入効率の違い以外に下記の結果が得られた.(1)LA-4と3T12-3では遺伝子導入効率が50倍異なるものの,shRNAによるTgfβ1タンパクの抑制効率は約50%とほぼ同等であった.(2)Tgfβ1に対するmRNAの発現を抑制する効果はLA-4では認められたが,3T12-3では認められず,同じshRNAの配列であっても細胞によってmRNAの切断と翻訳抑制など,タンパクの発現レベルを抑制するメカニズムが異なる可能性が示唆された.(3)Tgfβ1の抑制によりLA-4の細胞増殖は促進され,3T12-3は抑制された.我々はshRNAを搭載したAAV2/5を用いて肺胞上皮由来の細胞株に発現する遺伝子を抑制し得た.
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