蛋白品質管理機構である、ユビキチン-プロテアソームシステムが、心不全治療の新たな介入点となりうるか否かを探求することを目的として研究を進めた。心不全の病態形成における解析を行うために、マウスを用いて圧負荷誘導性の心肥大・心不全モデルの作成を行い、術後2週で有意な求心性の左室肥大、術後4週で有意な肺うっ血が起こることを確認した。筋組織に特異的に発現するユビキチン連結酵素MAFbxの発現レベルは、コントロールでわずかに発現しており、術後1週、2週と時間依存的にその発現レベルが有意に増加していくことを、ウエスタンブロット法で確認した。このことは、MAFbxが心肥大病態形成に関与する可能性が示唆された。さらに、MAFbxの役割を明らかにするために、MAFbx欠損マウスに圧負荷モデルを作成した。大動脈結紮後2週で野生マウスでは左室重量の増加が確認されたが、MAFbx欠損マウスでは圧負荷による左室肥大は有意に抑制された。さらに、大動脈結紮後4週で野生マウスでは肺重量の増大を認めたが、MAFbx欠損マウスの肺重量は増加していなかった。以上の結果からMAFbxは圧負荷に伴う心肥大および心不全の進行、心臓リモデリングを制御していることが明らかになった。心臓の組織学的検討から、MAFbx欠損マウスでは、圧負荷に伴う心筋細胞肥大が抑制されていた。さらに、TUNEL染色にて、MAFbx欠損マウスでは野生マウスと比較して心筋細胞アポトーシスが有意に減少していることが明らかになった。さらに、シリウスレッド染色により線維化の評価を行ったところ、MAFbx欠損マウスでは線維化の抑制が見られた。以上の検討から、内因性の筋特異的ユビキチン連結酵素MAFbxは、圧負荷に伴う心臓リモデリング及び心不全発症に対して促進的に作用している可能性が示唆された。
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