本研究では抗ドナー抗体陽性腎臓移植において、移植臓器が拒絶されない状態の確立法を目指している。これまでに大動脈内皮細胞において一定量の抗HLA刺激で誘導される遺伝子発現が補体活性による障害を減弱できることを見いだした。この現象はPI3K/AKT経路活性化に伴う、転写因子Nrf2を介したサイトプロテクティブ遺伝子発現誘導によるものであり、補体制御因子のは上昇しないことから、直接的な補体制御ではないと考えられた。また、この遺伝子発現はPI3K/AKTを負に制御するPTENの発現レベルに依存することも見いだした。上記の件はこれまで査読付き論文として2009/2010年にそれぞれ報告した。一方HLA抗体とABO抗体接着によるシグナル伝達において、真核生物で高度に保存されているERKにおいて差異が確認できた。実際の腎臓移植において、HLA陽性移植では補体活性が一端生じるとグラフトの機能低下につながる一方、ABO陽性移植では補体の活性化が直接拒絶へとは進行しない。そこでERKの活性化は内皮細胞の活性化と密接に関わることから、それぞれの抗体接着後のERKの活性化を観察した。その結果、HLA抗体接着では濃度依存的にERKが上昇し、ABOでは逆の現象が見られた。またERKの阻害剤による補体制御因子CD55/CD59の発現上昇を確認した。このことは現在腎臓移植で観察されている、長期成績の違いがERKの活性化に起因している可能性を示唆しており、さらなる研究を進める必要性があると考えられた。
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