研究課題
研究の目的は、正常ラットおよび脂肪肝モデルラットを用いて、虚血再還流障害における個々の細胞を単離培養することにより、細胞レベルにて固有の生物活性(抗血栓、抗炎症、アポトーシス制御など)の探索とその分子機構を解析し、抗血栓、抗炎症、抗アポトーシス作用を有するトロンボモジュリン(TM)を投与して虚血再還流障害の軽減の実証していくことである。研究の成果の具体的内容としては、方法として70%肝虚血を行い、90分後にクランプを開放した虚血再還流モデルラットを作成した。虚血30分後に組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM : 3mg/kgBW)を静注入した。肝実質細胞(Hep)、類洞内皮細胞(SEC)及びKuppfer細胞(KC)を単離培養し、血漿及び培養上清のプロテインS(PS)、IL-6及びTNFαはELISA法を用いて測定した。結果は、血漿AST、ALT、ヒアルロン酸は、生食投与群に比較して、rhsTM投与群で有意に低下していた。類洞内フィブリン沈着の改善及び血清FDP濃度の低下も、生食投与群に比較してrhsTM投与群で顕著に認められた。虚血再還流2時間後の血漿PS濃度は、虚血前に比較して両群とも75%程度に低下しており、また、Hep及びSECでの培養上清のPS産生量も、虚血前に比較して有意に低下していたが、生食投与群に比較してrhsTM投与群では有意に高値を示した。虚血再還流2時間後の血漿IL-6とTNFα、及びKCでのIL-6、TNFαの産生も、虚血前に比較して両群で有意に増加したが、それらの値は、生食投与群に比較して、rhsTM投与群で有意に低値を示した。本研究での意義として、rhsTM投与は、類洞内微小血栓形成の抑制及び炎症性サイトカイン産生の低下を介して、虚血再還流障害から肝臓を保護することが明らかになった。重要性としては肝切除時及び肝移植におけるグラフト肝では、一時的な血行遮断による肝類洞内微小血栓形成に起因する虚血再還流障害が認められるが、TMによって軽減され将来的に臨床応用が可能であることが示唆された。
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