昨年度までに、i)トロンボスポンジン1(TSP1)Thr(A)523A1a(G)多型のAアレルを有する群でβ遮断薬のノンレスポンダーが多いこと、ii)523Thr型に比べ523A1a型で著しいTSP1タンパク量の減少が見られること、iii)遺伝子型によるTSP1タンパク量の違いが、タンパク質の安定性及びmRNAの安定性の違いでは説明できないこと、iv)mRNAの高次構造が、523Thr(A)型と523A1a(G)型の間で大きく異なることを明らかにした。 iii)、iv)の結果から、TSP1 Thr523A1a遺伝子多型は、TSP1タンパクの翻訳過程に影響を及ぼしていると考えられる。そこで本年度はin vitro translationを行い、523Thr(A)型、523A1a(G)型間のTSP1翻訳量の差を検討した。具体的には、ウサギ網状赤血球無細胞翻訳系に523Thr(A)型または523A1a(G)型のTSP1 cDNA全長を加え、翻訳反応後のTSP1タンパク量をウェスタンブロットにより比較した。 その結果、523Thr(A)型の方が523A1a(G)型に比べTSP1翻訳量が多かった。このことから、TSP1 Thr523A1a(A1746G)多型はTSP1の翻訳に影響を及ぼすことが示唆された。 TSP1は、一酸化窒素(NO)のシグナル伝達系を阻害してその産生を抑制し、血管拡張能を低下させる報告があるため、心血管系において冠循環を低下させる作用を持つ可能性が考えられる。また、β遮断薬投与による心機能の改善に冠循環の関与が示唆される報告があることから、Aアレルを保有する心不全患者では、GG群に比べてTSP1の発現量が高いため冠循環が低下し、β遮断薬による心機能改善率が低くなり、ノンレスポンダー率が高くなったと考えられる。
|