研究概要 |
本研究では,歯の喪失と呼吸障害との関連を調べる目的で,MRIを用いて無歯顎被験者を対象に口腔と口腔咽頭の形態変化の関係を視覚的に明らかにすることを試みた.MRI撮像を行うにあたり,まず,撮像シーケンスの選択並びに,空間位置情報の精度の検討を行った.撮像には高速撮像法を用い,一辺20mmの単位立法格子からなるファントムを撮像し検討した結果,axial断面における断面積の計測においては,アイソセンターから前後50mmの範囲においては,5%未満の誤差範囲で計測できることが確認できた.その後同条件下で,4名の無歯顎被験者を対象に,全部床義歯装着の有無が口腔咽頭形態に及ぼす影響について検討した.口腔咽頭領域が精度高く評価できるよう頭部の位置付けを行い,全部床義歯装着の有無が鼻呼吸下の口腔咽頭断面積に及ぼす影響について検討した結果,口腔咽頭断面積は,硬口蓋後縁レベルから口蓋垂レベルまでは単調に減少した後,喉頭蓋レベルまでは増加する傾向を示すことがわかり,また全部床義歯非装着時は,装着時よりも鼻咽腔断面積が減少することがわかった.一方これらのデータと若年有歯顎ボランティア9名から得られた口腔咽頭形態に関するデータとの比較を行った結果,無歯顎者では義歯装着の有無に関わらず咽頭断面積が大きいことがわかった.本研究結果は,義歯非装着時に鼻咽腔断面積の減少が観察されたことから,歯の喪失に伴う口腔形態の変化が鼻呼吸障害の要因となる可能性を支持するものと考えられる.一方無歯顎者が若年有歯顎者よりも大きな咽頭断面積を有した点については,今後さらなる検討が必要と考えられる.
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