我が国において食道がんは5対1の割合で男性に多く、その死亡率(人口10万対)は1980年から2001年の約20年間に男性で7.8から14.7へと88%増加、女性も2.1から2.6へと24%増加し、悪性新生物の死亡率ではそれぞれ第6位と第13位に位置する。また、食道は解剖学的に他の消化器臓器と異なり漿膜を有していないことから、食道がんがん周囲に浸潤しやすく、またリンパ節転移も多く全体として予後不良な疾患である。近年、早期食道がんにおいて積極的に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)による治療を行い、研究代表者は、現在までに約150例を施行している。その中には、外科的切除(手術)による肉体的負担から、内視鏡的切除の相対適応病変も多数含まれるが、広範囲病変の内視鏡治療においては食道の管腔が狭いことから生じる術後狭窄の問題が残されている。そこで、低侵襲治療である内視鏡治療の利点を活かすため、何らかの術後狭窄の予防に関する新たなアプローチが必要であると考え、早期食道がん全周性切除後狭窄に対する新規予防法の開発を目的として研究を実施した。ブタの背部の皮膚を2ヶ所剥離し、一方には傷を保護するために透明シートのみを貼り、もう一方には酵母由来キチン含有多糖シートを貼ってそのうえに透明シートを貼って治癒過程を経過観察した。酵母由来キチン含有多糖シートを貼ったものは張らないものよりも周囲の腫脹は少なく、治癒過程も早い傾向にあった。消化管での検討ではシートと同成分薬液を内視鏡的に作成した胃潰瘍に局注したところ、1週間後では局注した方が治癒傾向にあったが、2週間後での観察では局注していない方が治癒傾向にあった。また、生体ブタに内視鏡下に半周の潰瘍を作成すると、ヒトと同様に2週間後には食道狭窄が認められた。
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